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「おねえさまへ その後」
グラン暦七六〇年。
後に、「バーハラの悲劇」と呼ばれる惨劇で、夫レックスを失ったラケシスは悲しみにうちひしがれていた。
悪阻がひどく、同行しなかったために難を逃れたのだが、一人残されたことを幸運など思えるものか。
場違いだしね、そういって城に残り、同じく難を逃れたデューは、ラケシスを少しでも慰めたいと思った。
「ラケシスさん元気を出してよ。あなたにはまだ、デルムッドもお腹の赤ちゃんもいるじゃない。エルトシャン王の忘れ形見だって、レンスターに居るんでしょ。あなたを待っている人たちのために、レックスさんの分も強くならなくちゃ」
ぴくり。
デューの精一杯の言葉に。ラケシスは思い出す。
そう――そうよ、わたくしには、わたくしの助けを欲している人が居るのだわ。
デルムッドは、エーディン様やオイフェが付いているから大丈夫。
それより――
「おねえさま」
はあ? 思いも寄らない単語に、デューは思わず間抜けな声をあげる。
それを無視して、ラケシスは続けた。
「お身体を壊されて、戦禍を逃れるためレンスターへ戻られたおねえさま。お兄様のお迎えを待って、さぞ心細い日々を過ごしていることでしょう。あの日のあの言葉通り、ラケシスはおねえさまのお側を離れてはいけなかったのですわ。おねえさま、いまラケシスがお側へ参ります。このラケシスが、おねえさまをお護り致しますわ!」
高らかに宣言するラケシス。
くるっと振り返り、デューに向き直る。
「デュー、わたくしはレンスターへ行くわ」
鮮やかに立ち直ったラケシスに呆然としながら、じゃあオイラも一緒に行くよ、とデューは申し出る。
「あたしも一緒に行こう」
右肩に息子ファバルを担いだブリギッドが現れ、ラケシスに同意した。
ブリギッドはバーハラ行き組であったが、クロード神父にワープの杖で飛ばされたのだ。
「フュリーとティルテュはシレジアに隠れ住むといってたよ。……今すぐにでもバーハラに戻って殴り込みたいトコだけどさ、あの人が、生き延びろっていったからね」
捜索の手は伸びるだろう。けれど、逃れ、生き抜いて、そしていつか――
一行は、遙か北トラキアを目指して旅立った。
しかし、ラケシスが義姉との再会を果たしたかどうかは、歴史の闇の中である。
もどる。 えんど。
20010222
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