ORIGINAL TOP
「通勤電車」
土曜日の通勤電車はとても空いていて快適です。
わたしはボックス席の窓側に座ると、頬杖をついて外を眺めました。
朝日に照らされた景色が流れてゆきます。いい天気です。
今日なら海岸近くを通るとき、灯台が見えるかもしれないな。
そんなことを思いながら、欠伸をひとつかみころしました。
いつかわたしは眠っていたようでした。
「次は大久万〜」
車掌のだみ声が聞こえます。
ふと、気配に顔を上げると、向かいの席に見知った顔がありました。
あれ?
われながら間抜けな声をあげてしまいます。
おはよう、と。高校の時同級生だった里見が、昔と変わらない仕草で手をあげました。
おはよう、いつのまに乗ってたの?
うん? ああ、前の方から移動してきたんだ。それよりお前、土曜なのにこんなに早くどうしたんだ?
休日出勤だよ。
へえ、忙しいんだ? 大変だな。
や、忙しいわけじゃないっす。たまたま、月曜朝一で送んなきゃならないデータがあってさ。終わんないのよ、全然。
それをフツー忙しいっていわないか。
いやいやいや。それ終わったら仕事ないのよ。しょうがないから昔のデータ整理でもすっかなーとか思ってたとこ。
ふうん。
サトっちは?
俺? 俺はお前に会いに来たんだ。
はあ?
俺は実はお前を捕まえるために駅のホームで張っていたのだよ。
バーカ、ストーカーかよ。
はははは。実は俺も仕事っす。お前らしき人影見つけたから、わざわざ移動してきてやったのになあ。爆睡してんだもんなあ。
んげげ。起こしてくれてよかったのに。
そんな恐ろしいことできるかよ。お前修学旅行の時、朝起こしてくれたサカキを殴ったじゃねえか。
うわなんつー古い話を。それにアレは殴ったんじゃなくて、たまたま振り上げた拳が。
サカキの頬にクリティカルヒットか?
ううううるさいなあ。寝起き悪いんだよ。ほっとけよ。
はははは。変わんねえなぁ、お前。
と、列車は速度を緩め。
「次は名賀町〜」
車掌が次の駅名を告げます。
おおっと、もう着いちまったか。
里見はあわてて立ち上がりました。
じゃーな。仕事、がんばれよ。
あんたもね。
おう。
サトっち。
うん? なんだ?
……いいや。じゃーね、ばいばい。
ああ。
里見を下ろし、電車は動き出しました。
涙がぼろぼろこぼれました。
今日でちょうど一年。
こんなふうに、天気のいい日だったと思います。
この天気が明日まで続けばいい。
そうしたら、彼のお墓参りに行こう。
わたしは再び頬杖をつき、流れる景色に目を戻しました。
end.
19990123/改
original top